2023年10月05日
人工透析ケアの基礎知識と実施ポイントのまとめ
人工透析は、慢性腎臓病の最終段階である末期腎不全の患者さんに対して行われる必須の治療法です。透析導入後の適切なケアは、患者さんの健康維持と QOL (Quality of Life) の向上に不可欠です。この記事では、人工透析ケアの基礎知識と、実施上の重要ポイントを詳しく解説します。医療従事者の方々はもちろん、患者さんやご家族の方々にも、この情報が役立つことを期待しています。
人工透析ケアの基礎知識
血液透析と腹膜透析の特徴
人工透析には大きく分けて2つの方法があります。
- 血液透析: 患者さんの血液を体外に取り出し、透析装置でろ過・浄化した後に再び体内に戻す治療法です。
- 腹膜透析: 腹腔内に透析液を注入し、そこで老廃物と水分を吸収させる治療法です。
両者には以下のような特徴があります。
血液透析
- 週3回、1回につき4時間ほどの治療が必要
- 専用の透析装置を使用
- 感染症リスクがある
- 外出の制限があり、生活リズムに影響
腹膜透析
- 1日数回の透析液交換が必要
- 腹腔内カテーテルを留置
- 感染症のリスクがある
- 外出も可能で、生活リズムに影響が少ない
透析アクセスの管理
透析を行うためには、血管や腹腔内にアクセスする場所が必要です。
血液透析の場合
- 前腕の血管にシャントを造設
- シャントの狭窄や感染症に注意が必要
腹膜透析の場合
- 腹部にカテーテルを留置
- カテーテル感染や腹膜炎に注意が必要
透析アクセスの適切な管理は、透析治療の継続に不可欠です。
合併症の管理
人工透析では、様々な合併症に注意を払う必要があります。主な合併症には以下のようなものがあります。
- 低血圧、けいれん、嘔吐など: 透析中の急性合併症
- 貧血、骨病変、動脈硬化など: 慢性合併症
- 感染症(シャント感染、腹膜炎など)
- 栄養障害
これらの合併症に対する適切な管理と予防が重要です。
食事療法と水分管理
人工透析患者さんには、食事療法と水分管理が欠かせません。
- 蛋白質、カリウム、リンなどの制限が必要
- 体重管理のための水分制限も重要
- 管理栄養士による指導が不可欠
患者さんの QOL を損なわない範囲で、これらの制限を行うことが大切です。
人工透析ケアの実施ポイント
血液透析ケアのポイント
- アクセスの管理
- シャントの状態をチェックし、狭窄や感染症の早期発見に努める
- シャントの穿刺部位や 方法を適切に選択する
- シャントの血流を維持するため、患肢の運動を促す
- 透析中のモニタリング
- 血圧、体重、体温などの vital signsを継続的に監視
- 透析中の合併症の早期発見と適切な対応
- 透析後のケア
- 穿刺部の止血と感染予防
- 患者の体調管理と水分・食事指導
- 感染症対策
- 手洗いやマスク着用などの感染予防対策の徹底
- シャント部位の清潔な管理
- 精神的サポート
- 透析治療への不安や落胆に寄り添う
- 前向きな気持ちを持ち続けられるよう支援する
腹膜透析ケアのポイント
- アクセスの管理
- カテーテル留置部の状態確認と感染予防
- カテーテルの位置や固定状態の確認
- 透析液交換の手技
- 無菌的な手技の習得と実践
- 排液の性状観察と感染兆候の確認
- 腹膜炎予防
- 交換時の手洗いと無菌操作の徹底
- 食事・水分管理による腹膜炎リスク低減
- 合併症への対応
- 腹痛、発熱などの症状観察と早期受診勧奨
- 腹膜炎発症時の適切な対応
- 精神的サポート
- 自己管理に不安を感じる患者への寄り添い
- 療養生活の質向上につなげる支援
多職種連携の重要性
人工透析ケアには、医師、看護師、管理栄養士、ソーシャルワーカーなど、多職種の協力が不可欠です。
- 医師: 透析処方、合併症管理などの総合的な医療を提供
- 看護師: 透析中の観察、感染予防、患者支援など日常ケアを実施
- 管理栄養士: 食事療法の指導と管理
- ソーシャルワーカー: 社会制度の活用支援、患者・家族への心理的ケア
これらの専門職が連携し、患者さん一人ひとりのニーズに合わせたきめ細かいケアを提供することが重要です。
まとめ
人工透析を受ける患者さんにとって、適切なケアは QOL の維持にとって不可欠です。医療従事者は、透析アクセスや合併症管理、生活指導など、様々な側面から患者さんをサポートしていく必要があります。
また、患者さんご自身も、医療スタッフや家族の協力を得ながら、前向きな気持ちを持ち続けることが重要です。この記事が、人工透析ケアの理解と実践につながれば幸いです。