2023年10月28日
人工透析と腎臓移植の違いとは?
慢性腎不全の治療においては、人工透析療法と腎臓移植が2つの主要な選択肢となっています。これらは根本的に異なる治療方法ですが、腎機能を代替・回復させるという共通の目的を持っています。本記事では、人工透析療法と腎臓移植の特徴や、それぞれの長短について解説します。
人工透析療法の概要
人工透析療法とは、腎臓の機能が低下した患者さんの血液を体外に取り出し、人工的に浄化してから体内に戻す治療法です。
具体的な流れは以下の通りです。
- 患者さんの血管にアクセスするために、カテーテルなどを挿入する
- 体外に引き出した血液を、人工透析装置内で濾過・浄化する
- 浄化された血液を再び患者さんの体内に返還する
- この血液濾過を3~4時間継続し、老廃物や余分な水分を除去する
週3回程度の頻度で、この治療を繰り返すことで、慢性腎不全の症状をコントロールできます。
腎臓移植の概要
一方の腎臓移植は、腎臓の機能が失われた患者さんに、他人の健康な腎臓を移植することで、腎機能を回復させる治療法です。
移植の流れは以下のようになります。
- 移植用の腎臓を確保する(生体腎移植または死体腎移植)
- 患者さんの体内にある腎臓を摘出する
- 新しい腎臓を患者さんの体内に移植する
- 移植腎臓が正常に機能することを確認する
移植後は、生涯にわたり免疫抑制剤の服用が必要ですが、移植腎臓が正常に機能すれば、透析療法を受ける必要がなくなります。
人工透析療法と腎臓移植の比較
人工透析療法と腎臓移植は、それぞれ長所と短所を有しています。両者の特徴を比較すると以下のようになります。
治療効果
人工透析療法
- 腎機能は代替されるが、完全な回復ではない
- 透析中は老廃物の除去が可能だが、透析間は蓄積する
- 残存腎機能に合わせた透析条件設定が必要
腎臓移植
- 移植腎臓が正常に機能すれば、腎臓の本来の役割を完全に代替できる
- 移植後は老廃物の蓄積がなく、食事制限も不要となる
- 免疫抑制剤を服用すれば、移植腎臓を長期的に維持できる
生活の質(Quality of Life:QOL)
人工透析療法
- 透析治療に時間を要するため、仕事や家事、趣味などに支障をきたしやすい
- 体調の変動に伴い、日常生活の自由度が低下する
- 食事制限など、生活面での制約が大きい
腎臓移植
- 移植後は透析治療からの解放により、自由な生活が送れるようになる
- 食事制限も大幅に緩和され、QOLが向上する
- 免疫抑制剤の副作用や合併症のリスクがある
合併症リスク
人工透析療法
- 透析中の循環動態変動による心血管合併症
- 透析関連感染症
- 骨・ミネラル代謝異常
- 透析アミロイドーシス
腎臓移植
- 移植手術に伴う合併症
- 移植腎の拒絶反応
- 免疫抑制剤の副作用
- 感染症リスクの増大
医療経済的側面
人工透析療法
- 長期にわたる継続的な医療費がかかる
- 医療費は公的医療保険の適用範囲内
腎臓移植
- 移植手術に高額な医療費がかかる
- 術後の免疫抑制剤の費用も必要
- 長期的に見れば、透析療法より医療費が抑えられる
待機期間
人工透析療法
- 透析治療を開始できる
腎臓移植
- 移植待機リストに登録し、ドナー腎臓の確保を待つ必要がある
- 待機期間は数年に及ぶことも
患者さんの選択と医療者の役割
慢性腎不全患者さんにとって、人工透析療法と腎臓移植はどちらが適切な選択肢なのでしょうか。医療者は、患者さんの状況に応じて、両者の長短を十分に説明し、患者さんの意思決定を支援する必要があります。
患者さんの状況に応じた選択
患者さんの年齢、基礎疾患の状況、合併症のリスク、経済的な事情など、個々の状況を総合的に勘案して、最適な治療法を選択する必要があります。
例えば、若年の患者さんであれば、腎臓移植の適応が高いでしょう。一方、高齢者や合併症が多い患者さんでは、人工透析療法の方が適切な場合もあります。
また、患者さんの価値観や生活スタイルも考慮する必要があります。QOLの重視度合いによっても、選択が変わってくるでしょう。
医療者による十分な情報提供と助言
医療者は、患者さんが最適な選択ができるよう、人工透析療法と腎臓移植の具体的な特徴について、十分に説明する必要があります。
治療効果、QOL、合併症リスク、経済的負担など、様々な側面から比較し、患者さんの状況に合わせた助言を行うことが重要です。
また、患者さん自身の意思を尊重しつつ、医療者の専門的な見地から、最善の治療法を一緒に検討していくことが肝心です。
多職種による総合的なサポート
人工透析療法と腎臓移植は、それぞれ専門性の高い治療法です。そのため、医師、看護師、管理栄養士、薬剤師、ソーシャルワーカーなど、多職種が連携して、患者さんをサポートする必要があります。
例えば、医師が治療方針を決定し、看護師が療養生活の指導を行い、管理栄養士が食事療法をサポートするといった具合です。
このように、患者さんの状況に応じた最適な治療法を見出し、継続的なケアを提供することが、医療者に求められる役割といえるでしょう。
まとめ
慢性腎不全の治療法には、人工透析療法と腎臓移植の2つの主要な選択肢があります。
両者には、それぞれ長所と短所がありますが、腎機能の代替・回復という共通の目的を持っています。患者さんの個々の状況に応じて、適切な治療法を選択し、医療者がサポートすることが重要です。
医療者は、患者さんが最善の選択ができるよう、治療法の特徴を十分に説明し、患者さんの意向を尊重しながら、最適な治療方針を一緒に検討していく必要があります。
また、多職種が連携して、患者さんの全人的なケアを提供することで、より良い治療成果が期待できるでしょう。
慢性腎不全の治療は複雑な課題ですが、患者さんに寄り添いながら、最善の治療法を見出していくことが医療者の重要な役割だと考えます。