2024年01月16日
人工透析手順の流れとポイント
はじめに
人工透析療法は、腎臓の機能が著しく低下した末期腎不全患者さんに対して行われる生命維持のための治療法です。透析療法には、安全性の確保や治療効果の向上のために、標準化された手順や注意点があります。本記事では、人工透析の手順の流れと、各ステップにおけるポイントについて詳しく解説していきます。
血管アクセスの確保
(1) 動静脈瘻の作成
- 自己血管を利用した動静脈瘻は、透析に最も適した血管アクセスです。
- 手術により、前腕の動脈と静脈を直接吻合し、太い血管を作ります。
- 数週間の成熟期間を経て、血流量が十分確保されるようになります。
(2) 留置型カテーテルの挿入
- 動静脈瘻の作成が困難な場合は、一時的な血管アクセスとして留置型カテーテルを使用します。
- 大腿静脈やshoulder vein、internal jugular veinなどに留置します。
- 感染症リスクが高いため、可能な限り短期的な使用にとどめます。
透析回路の準備
(1) 透析装置の設定
- 患者さんの体重、透析条件に合わせて、透析装置のパラメータを設定します。
- 血流量、透析液流量、透析時間、透析液組成などを適切に設定する必要があります。
(2) 血液回路の接続
- 無菌的な手技で、血液回路をアクセスラインに接続します。
- 回路内の空気を抜き、血液が円滑に流れるよう確認します。
(3) 透析液の準備
- 透析装置に合わせて、適切な組成の透析液を調整します。
- 電解質濃度、pH、温度などを確認し、無菌的に供給します。
透析の開始
(1) 血液回路の接続
- アクセスラインからの血液流入を確認しながら、静脈回路と動脈回路を接続します。
- 回路内の空気を完全に抜いて、閉鎖循環が確保されていることを確認します。
(2) 透析の開始
- 透析装置を始動し、血液と透析液の流れを開始します。
- 徐々に血流量と透析液量を上げ、所定の条件に設定します。
- 血圧、体重、バイタルサイン等をモニタリングしながら、経過を観察します。
(3) 抗凝固薬の投与
- 回路内の血液凝固を防ぐため、ヘパリンなどの抗凝固薬を投与します。
- 投与量は患者さんの出血リスクや凝固傾向に合わせて調整します。
透析中のモニタリングと管理
(1) バイタルサイン
- 血圧、心拍数、体温などのバイタルサインを定期的に測定・記録します。
- 低血圧や不整脈など、重大な変化がないかを監視します。
(2) 体重管理
- 透析開始前後の体重を測定し、目標体重との差を確認します。
- 過剰な体液除去は低血圧の原因となるため注意が必要です。
(3) 抗凝固薬の投与管理
- 回路閉塞を防ぐため、ヘパリンなどの投与量を適切に管理します。
- 出血リスクにも留意し、投与量を調整します。
(4) アクセスラインの管理
- 穿刺部の状態を確認し、感染徴候がないかモニタリングします。
- 血流量の低下がないよう、アクセスの状態を定期的に評価します。
透析の終了
(1) 血液回路の分離
- 透析終了時は、静脈回路と動脈回路を慎重に分離します。
- 血液が回路外に漏れ出さないよう、バルブの操作に注意します。
(2) アクセスの処理
- 穿刺部位の止血を確実に行い、感染予防の処置を行います。
- 動静脈瘻の場合は、圧迫止血の後、適切な処置を行います。
(3) 抗凝固薬の中和
- ヘパリンなどの抗凝固薬を使用していた場合は、中和剤(プロタミン)を投与します。
- 出血リスクの軽減と、速やかな血液凝固能の回復が重要です。
(4) 透析装置の洗浄
- 透析終了後は、血液回路やダイアライザーを適切に洗浄・消毒します。
- 次回使用時の安全性を確保するための重要なステップです。
透析患者のケア
(1) 合併症の管理
- 透析中や透析後の低血圧、けいれん、嘔気などの合併症に注意します。
- 速やかな対応と適切な処置が必要です。
(2) 栄養管理
- 慢性腎不全患者の特性を考慮した食事療法を行います。
- 管理栄養士と連携し、適切な栄養状態の維持に努めます。
(3) リハビリテーション
- 筋力低下や関節拘縮予防のため、理学療法士と協力してリハビリを行います。
- 生活の質の向上と自立度の維持が目標です。
(4) 心理的サポート
- 透析療法への適応のしにくさから、うつ状態などの合併が多いことに留意します。
- 看護師や医療ソーシャルワーカーによるケアが重要です。
まとめ
人工透析の手順には、安全性と治療効果の向上のための様々なポイントが存在します。医療スタッフ全員が、手順の標準化と患者さんの状態に合わせた適切な対応を心がけることが重要です。本記事が、透析療法の実践に役立てば幸いです。